状況対応リーダーシップとは
状況対応リーダーシップは、ハーシィ博士らによって紹介された管理上の考え方であるが、これは人々(マネジャー、コンサルタント、役人、教師、教育訓練担当者、親など他人の行動に影響を及ぼそうとする人々)が毎日の生活の中で、効果的に、相手に働きかけるために役立つものである。この考え方は、与える指示の量(指示的行動)、支援の量(協労的行動)および部下のレディネス・レベルという3要素の関係から成り立っている。この考えは、相手が個人でも、集団でも活用できるが、本書では個人を相手にする場合を前提にして説明する。
● 指示的行動と協労的行動
リーダー行動の「仕事」および「人間関係」の2つの面に着眼するようになったのは、過去数十年の経営管理研究の大きな業績である。この2つの側面を従来は<専制的(Autocratic)>に対して<民主的(Democratic)>、あるいは<生産指向的(Production-oriented)>に対して<従業員指向的(Employee-oriented)>などと呼んできた。一時期、課題指向的行動と関係指向的行動は、たがいに相入れないリーダーシップ・スタイルであると思われたこともあった。つまり、この2つのスタイルが両極に位置するものと考えられ、一方の端に専制的(課題指向的)リーダーシップ・スタイルを置き、他の端に民主的(関係指向的)リーダーシップ・スタイルを置いて考えることができると考えたのである。
図2 リーダー行動の幅
最近にいたって、課題指向か、さもなければ関係指向、と考える二者択一的な一本線的図式はあとを絶った。他にも理屈に叶った考えがあり、それがより有効なリーダーシップ理論へ導くことがわかってきたのである。
種々の状況での実際のリーダー行動を観察してみて、オハイオ州大スタッフはリーダー行動がたいていの場合、2つのはっきりと異なった行動の態様、もしくは次元に分類できることに気付いた。そしてこれらを「行動構造主導的(指示的)」側面と「配慮的(協労的)」側面と名付けた。
指示的行動(Task Behavior)とはフォロアーに、何が、いつ、どこで、どのように果たされるべきか、を一方的にリーダーから伝達する、そのようなリーダー行動をいう。
協労的行動(Relationship Behavior)とは、社会連帯的支援姿勢、<心理的ストローク(Psychological strokes ― ハーシィ他著「行動科学の展開(生産性出版)」を参照)>、その他の行動促進的働きかけ、等々、上・下双方を結ぶ意思疎通にリーダーがたずさわることをいう。
先に述べたオハイオ州大のリーダーシップの研究から、さらにリーダーシップのスタイルがリーダーによって大きく違ってあらわれることが発見された。課題達成のための指示的行動を主とするリーダーがいるかと思えば、フォロアーとの人間的関係の維持や社会連帯的支持行動に専念するリーダーもいる。それどころか指示的であると同時に協労的でもあるという両傾向兼備のリーダーシップ・スタイルも見られた。逆に、指示的でもなければ協労的でもない行動を示すリーダーすらいたのである。どんな職場のどんなリーダーにも共通して模範となる典型的リーダーシップ・スタイルなどは存在しなかったのである。むしろ、いろいろなリーダーシップ・スタイルが組み合わさって現れることが明白となった。リーダーシップ・スタイルのパターンは、図3に示されるような2つの軸を使ってはじめて、示されるものなのである。
図3 リーダー行動の4つの基本型
過去何十年かの研究が「理想的」リーダーシップ・スタイルなど存在しないこと、を裏付けているので、図3に示した4つの基本スタイルは、どれをとっても状況によっては有効であり、また無効であるといえる。ハーシィらは、リーダーシップ・スタイルが有効か無効かは、使われる状況によって決まるとしている。
状況対応リーダーシップは、(1)リーダーが示す指示の量(指示的行動)と(2)リーダーが与える社会連帯的支援の量(協労的行動)、および(3)リーダーがフォロアーを通して果たそうとする業務、職能、または目標に対するフォロアーの「レディネス」との相関関係にもとづいている。
● レディネスの概念
状況対応リーダーシップでは、レディネスを行動責任を担当する意欲と能力と定義する。レディネスを構成する要素は、果たそうとする課題との関係で考えられねばならない。つまり全体的、人格的な意味でレディネスの有無・高低をいうのではない。リーダーがフォロアーを通して達成しようとする当面の業務、職能、目標について、フォロアーはいろいろな程度のレディネスを備えているわけである。
したがって、セールス・コールについてレディネスの高い販売員も見込客報告を書くレディネスが高いとはかぎらない。その結果、この販売員の上司は、セールス・コール活動については指示や助言を控えめにし、見込客報告作成については十分な指示と監督を行うのが適切といえよう。さて、行動に対する責任負担意欲(動機)や能力(達成力)の有無で人々のレディネスをはかる場合、レディネスの概念には次の二面、すなわち心理レディネスと職務レディネスがあることに注目されたい。
心理レディネスは、何かをしようとする意欲、あるいは動機に対応する。「責任」ということに高い心理レディネスを示す者は、責任を果たすことを重要と考え、職務責任の負担には自信もあり良い感情を持っている。したがって、仕事をさせようとして、むやみに慰めたり、励ましたりする必要はない。職務達成に対する心理レディネスが高い人は次のようなコメントをするに違いない。
「私は仕事上の責任負担を好みます。仕事をさせるために、私をいちいち追いかけて激励する必要はないのです。」
職務レディネスは、何かをする能力、達成力に対応する。職務レディネスの高い人は、指示がなくても、その仕事については、知識も能力も経験もあるわけである。職務レディネスの高い人はきっとこう言う。
「私にはこの仕事に才能があるのです。この仕事をしている限り、上司の助けがなくても独りでやっていけます。」
さて、これら2種のレディネス・レベルについて、それぞれ高い人と低い人がいることから、次の4つの組み合わせが考えられる。
したがって、最もレディネスの高い人は、第4番目の組み合わせに入り、最もレディネスの低い人は第1番目の組み合わせに入る。
● 基本概念
状況対応リーダーシップでは、レディネスが低い部下には、指示を与え、連帯的支援を控えるようにすべきだ、とされる。また、部下のレディネス・レベルが上がるにつれて、リーダーは指示の程度をやわらげ、他方、協労的行動を強めるべきである。しかし、これは部下のレディネス・レベルが平均以上のレベルに高まるまでのことである。部下のレディネス・レベルが平均以上のレベルに育つにつれ、指示の程度のみならず、協労の程度までも、共に順次減らしていくのが適当である。今や、部下は、課題遂行・達成の点でも、心理的に成熟したわけである。部下は、この段階にいたると自分自身でも心理的ストロークや励ましを、自分自身で加えることができるので、リーダーからのストロークや励ましは割愛できるようになる。このようにレディネス・レベルが高くなると、リーダーからの監督が減り、自由裁量の余地を大きく与えられるようになるが、フォロアーはこれをリーダーからの信任が増したことの証拠とみるようなっている。状況対応リーダーシップでは、リーダーシップ・スタイルの適切性、もしくは効果性を、部下の課題に関するレディネスに照らして検討することに焦点をあてている。このリーダーシップ・スタイルの変移サイクルは、図4に示すように、先に示したリーダーシップの4つの基本スタイルの象眼図に重ね合わせたベル・カーブであらわすことができる。
図4 状況対応リーダーシップ・モデル
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図4は、部下の能力を活かすべく選んだ、上司の最適リーダーシップ・スタイルを、部下のレディネス・レベルに対応させたものである。この図が、2つの異なった事象を示していることに注意されたい。部下のレディネス・レベルに対して適切なリーダーシップ・スタイルは、4つのリーダーシップ象限を貫くカーブのどこかの点で示される。監督下の個人のレディネス・レベルは、リーダーシップ・モデル図の下に、低いレベルのレディネスから高いレベルのレディネスへと展開する棒図をもって示されている。
モデル図上のリーダーシップ・スタイルに言及する場合、次のような略称で呼ぶ。すなわち、(1)高指示/低協労はS1のリーダー行動スタイル、(2)高指示/高協労はS2のリーダー行動スタイル、(3)高協労/低指示はS3のリーダー行動スタイル、そして、(4)低協労/低指示行動は、S4スタイルである。
フォロアーのレディネスは、単に円熟か未熟かの問題ではなく、<程度>の問題として把えるべきである。図4からもわかるように、レディネス・レベルを示す棒線図を4つのレディネス・レベルに分割することによって、適切なリーダーシップ・スタイルを決めるための指標を求めることができる。そこで、(1)意欲も能力もない(心理レディネスも職務レディネスも低い)場合のレディネス・レベルをR1とし、(2)意欲はあるが能力がない(心理レディネスは高いが職務レディネスが低い)場合をR2、(3)能力はあるが意欲がない(職務レディネスは高いが心理レディネスが低い)場合をR3、そして、(4)能力も意欲もある(心理レディネスも職務レディネスも高い)場合をR4としたい。
● モデルの活用
では、モデル図上に示されたリーダー・スタイルの変移を表すベルカーブは、どう使えばよいのか。これは、特定のレディネス・レベルの相手に対してとるべきリーダーシップ・スタイルを示すのに使うことができる。
● 適切なスタイルの決定
与えられた状況において、どのようなリーダーシップ・スタイルが適切か、を決めるには、まず、その仕事に対する相手(フォロアー)のレディネス・レベルを判定しなければならない。相手のレディネス・レベルが、ひとたび判定されたら、適切なリーダーシップ・スタイルは、レディネス・スケール(棒線図)上のレディネス・レベルから、垂線(90゜度角)を上へ向けて引き、これとモデル図上のリーダーシップ・スタイル曲線(ベル・カーブ)と交わる点に定めることができる。その交点のある象限が、そのレディネス・レベルのフォロアーに採るべき適切なリーダーシップ・スタイルを示唆しているわけである。では、図5によって例題を考えてみることにしたい。
図5 適切なリーダーシップ・スタイルの決定
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ある上司が、部下の書類処理事務のレディネス・レベルを低いと判断したとする。状況対応リーダーシップによれば、この場合、図5に示したように、レディネス・スケール上、R1のところに<×>を附すことになる。部下の書類処理事務を監督するのに、どのようなスタイルをとるべきかは、こうして附されたレディネス・スタイル上の<×>から、上に向けて垂線を立て、ベルカーブとの交点(図5では、白ぬき点「○」)で示される。交点はS1象限にあるから、この仕事にR1のレディネスを示すこの部下を、監督する場合には、S1スタイル(高指示/低協労)をとるべきであると判る。4つのレディネス・レベルのどれについても、適切なリーダーシップ・スタイルを、上記のやり方で決めることができる。つまり、レディネス・レベル記号のそれぞれ(R1、R2、R3、R4)が、リーダーシップ・スタイルのS1、S2、S3、S4に、それぞれ対応していることに気づかれよう。すなわち、R1のレディネスにはS1のスタイルを、R2のレディネスにはS2のスタイル等々・・・・が対応しているのである。
ここで、「低協労」といっているのは、決して上司が部下に冷たく、親身にならない、ことを意味するものではない。部下の書類処理事務遂行に、上司は、社会連帯的支援や励ましを与えることよりも、<なに>を<いかに><いつ><どこで>など、作業指示を与えることに時間をさくべきだ、といっているのである。協労的行動の強化は、必要とされる書類処理事務を満足に果たせる能力を部下が示しはじめてから行うべきである。この時点になると、スタイル1からスタイル2へリーダーシップ・スタイルを移行することが適当になったといえる。
状況対応リーダーシップでは、課題についてレディネスが低い(R1)と思われる人を監督する場合には、高指示/低協労なスタイル(S1)が、最有効である可能性(確率)が高いと主張している。また、低いレディネスから中程度にいたるレディネス(R2)の人たちに接する場合には、指示量も十分高く、かつ社会連帯的支援量も高いスタイル(S2)が、そして、レディネスが中の上である人たち(R3)を相手にする場合には、高協労/低指示(S3)が、それぞれ成功率が高く、そして最後に、低協労/低指示スタイル(S4)はきわめて高いレディネス(R4)を示す人たちに対して最大の成功率をもつ、と主張しているのである。
先に述べた指示的行動と協労的行動の定義を知ることはもちろん大切である。そうした定義を踏まえて状況対応リーダーシップの各スタイルを図6に示すように略称で呼ぶと、即席診断に、便利である。
図6 状況対応リーダーシップ・モデル
高指示/低協労のリーダー行動(S1)は、リーダーがフォロアーの行動のあり方を一方的に定め、なにを、いかに、いつ、どこで果たすべきか、を教示する行動で特徴づけられるので、これを<教示的(Telling)>と呼ぼう。
高指示/高協労なリーダー行動(S2)では、多くの指示が、まだリーダーから発せられているため、<説得的(Selling)>と呼ばれるが、このスタイルでは同時に、相手にリーダーの決定に納得させるため意思の<交流>が図られ、<連帯>的支援の姿勢が示されてる。
高協労/低指示なリーダー行動(S3)では、リーダーとフォロアーが意思交流を行う。また、フォロアーの課題遂行の能力も知識も備わっているので、リーダーとしては、相手の行動を促す行動をとることを主とするだけで十分であるため、<参加的(Participating)>スタイルが採られる。
低協労/低指示なリーダー行動(S4)は、結果的にフォロアーに「自由にやらせる」ことになるため、<委任的(Delegating)>と呼ばれる。リーダーは、フォロアーが高いレディネスをもち、自分自身の行動を自ら律する意欲と能力とをもっていると考えられるので委任的でよいのである。
これら<教示的>、<説得的>、<参加的>、<委任的>という名称は、S1、S2、S3、S4のスタイルが効果的に使われたときにのみ使われる。例えば、低いレディネスを持つ人に対して、S4という適切でないリーダー行動を使った場合、<委任的>ではない。委任的というより、むしろ放任的であり、従って、効果的に使われた場合のスタイル4(S4)と同じ名称では呼ぶことはできない。
状況対応リーダーシップと目標による管理(MBO)
<目標による管理>では、リーダーと部下の間が、仕事目標と達成結果の評価方法について合意に達したのち、リーダー行動は一般にS4(低協労/低指示)スタイルに移ることになっている。だが、状況対応リーダーシップによれば、S4が効果的に機能するには、部下が目標を達成する意欲と能力をもちあわせていなければならない(つまり、R4)。しかし、レディネス・レベルは仕事によって異なるからいつもこのようにうまくいくとは限らない。経験の足りない、またやる気も起こらない仕事にブツかることがある。リーダーと部下がいったん仕事の目標を決定したら、次のステップは(実際にはあまり行われていないが)、リーダーの適切なリーダーシップ・スタイルを討議・決定することである。このようなリーダーシップ・スタイル契約(決定)が行われないと、あとで問題が生じる。たとえば、リーダーが部下を全く放っておいたとして、この低協労/低指示な委任的リーダーシップ・スタイル(S4)は果たして適切だろうか、それとも不適切だろうか。この適不適は次の診断のときまで気付かないことになってしまう。S4スタイルは、部下がかなりのスキルをもっていて、手順もよく知っており、意欲もある場合にのみ効果的である。逆に、目標や仕事について決定した後でも、リーダーが部下のまわりを相変わらずうろうろして指示を与えているとすると、このリーダーの高指示/低協労スタイル(S1)によって、部下は能力のある分野の仕事ですら遂行できなくなってしまう。
<レディネス・スケール>診断表開発
効果的リーダーシップ・スタイルを話し合って決めるとき、仕事に対する部下のレディネス・レベルを正確に把握することが重要である。部下のレディネスについて「正確な」判断ができるように、そしてさらに、適切なリーダーシップ・スタイルが決定できるように、異なった2つの<レディネス・スケール―リーダー(上司)>と<レディネス・スケール―フォロアー(部下)>が開発された。
● レディネス・スケール―リーダー(上司)
このレディネス・スケール―リーダー(上司)が最初に開発された診断表である。この診断表の開発中、レディネスには2つの面があると考えられていた。先述のように、レディネスには、意欲(動機)と仕事をする能力(達成力)とが含まれている。意欲は心理レディネスに、能力は職務レディネスにそれぞれ対応している。
次に、この2つのレディネスのそれぞれについて、採点可能なスケールを考えた。たとえば、職務レディネスについては、<過去の職務経験>、<職務知識>、<職務理解能力>、そして心理レディネスについては、<責任負担意欲>、<遂行意欲>、<達成意欲>、などである。こうしてレディネス採点の基準指標として、それぞれ30項目ずつが開発され、後にこれらの基準指標を編集し、改良された。さらに研究を重ね、その内20項目が最も関連があるものとして選び出され、そして、これら20項目の各スケールに「目安となる指標行動」が定められた。
たとえば、「過去の職務経験」と記した指標は「この仕事に関連する経験をもっている」から「この仕事に関連する経験をもたない」に至っている。また、心理レディネスにおける「責任負担意欲」の欄は、「極めて意欲的」から「極めて消極的」までのスケールであらわされる。
図7 レディネス・スケール―リーダー(上司)採点配分

図7の8段階スケールは、診断表の中で用いられている。<高>、<中程度>、<低>、とあるのは、レディネス・レベルの指標のR1からR4までのレベルを示している。スケールの1から2は、レディネス・レベルのR1に相当し、3から4はR2に、5から6はR3に、7から8はR4にそれぞれ相当する。
● レディネス・スケール ―リーダー(上司)の使い方
レディネス診断を行うにあたって、上司はまず、部下の最も重要な仕事を5項目は選ばねばならない。目標による管理プログラムをやっている場合には、すでに部下の仕事(の目標)が合意のもとに決定しているだろうから、それらの仕事を使えばよい。また、それらの仕事(目標)について、達成結果を評価するための目安もおよそ決めておくとよい。
レディネス診断の手掛かりとなる仕事が決定したら、それぞれの仕事について、職務レディネスと心理レディネスを別々に診断する。
各仕事目標について、職務レディネスの5項目の各得点を合計して、職務レディネスの総得点をだし、同様に、心理レディネスの5項目の各得点の合計から、心理レディネスの総得点を導きだす。特定業務における部下の職務レディネス、もしくは心理レディネスの最高得点は40点で、最低点は5点である。
職務レディネスと心理レディネスの得点がでたら、図8のデータ・マトリックスに照合して、上司からみた(特定業務の)部下のレディネス・レベルと、それに最も適したリーダーシップ・スタイルを決定する。
図8 職務レディネスおよび心理レディネスの得点の解釈
特定業務の部下のレディネスと、そのレディネス・レベルに最適なリーダーシップ・スタイルは、部下の職務レディネスと心理レディネスの得点の組み合わせから得られる。上記マトリックス中のそれぞれの枠の左下部分には、その特定業務/責任に対する部下のレディネスが示されている。そして右上部分には、そのレディネス・レベルをもつ部下に対して上司が用いるべき、成功率の高いリーダーシップ・スタイルが示されている。(この組み合わせの中には、2種類のレディネス・レベル、もしくは、リーダーシップ・スタイルを表したり、その中間のレベル、もしくはスタイルを表したりする。)
かりに、ある部下の特定業務における職務レディネス得点が27、心理レディネス得点が24だと上司が判断したとしよう。図8のデータ・マトリックスより、職務レディネス得点と心理レディネス得点がともに23点から32点である枠に当てはまる。その枠にあるように、特定業務の部下の総合的なレディネス・レベルはR3ということになり、その部下に対する最適リーダーシップはS3 <参加的(高協労/低指示)>ということになる。
部下のレディネス・レベルと、それに合わせた最適リーダーシップ・スタイルの決定は、それぞれの仕事目標、または責任毎に繰り返し行う。この診断表を使い慣れるうちに、部下のレディネス・レベル診断を10分程度で終えることができるようになるだろう。
● レディネス・スケール ―フォロアー(部下)
最近、レディネス・スケール―リーダー(上司)を改良し、部下自身で診断できるレディネス・スケールが開発された。このレディネス・スケール―フォロアー(部下)を使うときには、目標による管理とリーダーシップ・スタイル契約を組合せたプログラムを採り上げる必要がある。
リーダーシップ・スタイル契約
リーダーシップ・スタイル契約にはいる前に、目標による管理サイクル(図1を参照)の始めの4つのステップを完了させていなければならない。リーダーと部下の間で、特定の職務と目的、および結果評価方法を合意の上決定したら、次に、部下の職務遂行上、リーダーが使うべき適切なリーダーシップ・スタイルを協議・決定する。この作業を円滑に進めるための道具として、レディネス・スケールを使う。
かりにある営業部員とその上司(営業マネジャー)が、その年の諸課題目標(営業、サービス、管理、チーム支持等)について合意に達したとしよう。この合意の後、両者が状況対応リーダーシップを応用するとすれば、営業部員の目標達成援助に適したリーダーシップ・スタイルを協議することが、次のステップとなる。このステップは2つのレディネス・スケールを使って以下に示すように進める。
● 各自で採点する
マネジャーは、合意決定したそれぞれの職務について、その営業部員のレディネス・スケール―リーダー(上司)を記入し、同様に営業部員自身もレディネス・スケール―フォロアー(部下)を記入する。営業マネジャーと営業部員はそれぞれ採点・診断したレディネス・レベル、および適合するリーダーシップ・スタイルを比較・検討する。
● 合意・決定(摺り合わせ)
営業部員とマネジャーは、職務(仕事)毎のレディネスとリーダーシップ・スタイルについて自分で行った採点・結果を持ち寄って、1つずつ摺り合わせ・点検する。
第1に、各職務について両者が採点した総合的レディネス・レベル、およびそれに適したリーダーシップ・スタイルを比較し、営業部員の目標達成の能力と意欲についての見解の相違を確認する。営業部員のレディネス・レベルと最適リーダーシップ・スタイルについて両者の見解が一致した仕事(職務)については、あまり討議する必要はない。
営業部員のレディネス・レベルについて見解に相違があった場合は、相異点と相異度を明確にする。このプロセスは、営業部員にとって、自分の過去の職務経験や職歴を上司に知ってもらうチャンスになるし、上司が自分に対する気掛りやその理由を知ることもできる。同時に、上司は、自分の仕事(営業、サービス、管理、チーム支援等々)に関する心配事、またその営業部員に対する気持ちを知らせることもできる。こうしたフィードバックを通じて、最終的に、レディネス・レベルと最適リーダーシップ・スタイルを合意・決定することができる。もし、合意・決定ができないときは、部下の考えを主にするとよい。つまり、部下に合わせるのである。これは重要である。とくに、特殊な上下関係のもとで、初めてリーダーシップ・スタイル契約を結ぶときに重要である。上下間の意見が合わなかった時にいつも上司が「勝って」、その意見が優先されたら、部下は自分の意見を表に出さなくなり、上司が聞きたい事ばかり言うようになってしまう。
この営業部員とマネジャー間の契約では、マネジャーのほうが、部下の仕事に対するリーダーシップ・スタイルを変化させるべきである。営業部員が職務経験をもっていて、一定期間、成果をあげてきたのなら、リーダーシップ・スタイル契約に基づき、この部下のレディネスが極めて高ければ、上司はすべてを委任することもできる(S4)。この場合、部下の行動を指示的かつ監督的にみるというよりむしろ、まず、セールス目標達成に必要なリソースがいつでも与えられることをはっきりさせた上で、仕事できるよう監督すべきである。また、当人にあまり経験がない分野、たとえば、セールス・チーム援助(これは、この会社の営業部員にとっては新しい職務であるとしよう)のような分野では、当人がチーム援助という仕事についての自分の役割を理解し、上司の助力なしでもできるようになるまで、監督や援助の量が多くなることに異存はないはずである。能力はあるが、自信がない分野では、マネジャーは、当人に対して、援助や激励をしても、指示はしない、という姿勢をとるのがよい(S3)。当人にやる気も能力もない分野(R1)では、少々の責任をもって仕事をするようにするのは良いが、重要な職務を与えるべきではない。
● 各契約スタイル決定の意味
マネジャーと営業部員間で、それぞれの職務に使われるリーッダーシップ・スタイルについて合意し、契約を結んだら、次にマネジャーのスタイルの意義を考えるべきである。合意に達したことが、マネジャーの行動に影響を与えないとしたら、この契約作業は、単なる知的遊戯に終わってしまう。これを防ぐ唯一の方法は、二人が腰を据えて、ミーティングを開き、合意に達したリーダーシップ・スタイルについて討議することである。S2スタイルが契約されている職務では、おそらく週に2日、1時間くらい部下と話し合うだけで十分だろう。S3スタイルで契約を結んだ場合は、おそらく数週間に1回の割合で、部下と話し合うべきだろう。これで、営業部員はマネジャーに自分がやった仕事の成果を示すことができるし、またマネジャーもそれに対して必要な援助を与えることができるだろう。最後にS4の場合は、部下は援助が必要なときのみにマネジャーを呼ぶべきである。いままで述べてきたことからも明らかなように、もしマネジャーが、意欲も能力も低い部下(R1)を、独りで行動できるまで成長させたいと思うなら、初めのうちは毎日部下と会い、必要な指示と監督を与えなければならない。
レディネス・レベルの育成
それぞれの仕事についてのリーダーシップ・スタイルとは何か、について討議し統一見解が出たら、マネジャーは、部下の自主的行動能力と意欲の成長を観察し、それにあわせて徐々に、ミーティング指導の回数を減らしたり、その重要性を軽くしていくべきである(もし部下の仕事の成果が落ちたら、マネジャーは、ミーティングつまり指導を増やす必要がある)。部下のレディネス・レベルが低い仕事では、はじめ、ミーティング(指導)を多くスケジュールしておき、その指導でも指示を多めにする(S1)。部下が成長しはじめたら、ミーティング(指導)回数を徐々に減らし、もっと<ギブ・アンド・テイク(双務的)>な形をとるようにする(S2)。次段階では、ミーティング(指導)の回数をさらに減らして、より援助的で非指示的にする(S3)。最終段階では、部下から申し出のあったときにミーティングを行う(S4)。図4(9ページ)に戻って、そこに描かれているリーダー・スタイルのカーブの動きに注意されたい。このカーブは、<教示的>から<説得的>、<説得的>から<参加的>、そして<委任的>へという動きを表しているのである。
過去に、大きな責任を担ったことのないフォロアーに、レディネス・レベルを高めるべく働きかけるときは、急激に連帯的支援(協労的行動)を増強することのないよう注意しなければならない。そんなことをすると、上司が甘くなったと見てしまうかもしれない。マネジャーは、指示的行動を僅かづつ減らし、協労的行動を少しずつ増していきながら、部下のレディネス・レベルの向上を図るべきである。相手の仕事振りがよくない場合、それが突然よくなるとは期待できない。望ましい行動を身につけさせるには、たとえ僅かなきざしでも、望ましい行動に近い行動をとったときは、できるだけ早くこれを認め・奨励すべきであり、これを繰り返し重ねることによって、相手の行動はリーダーが望ましいと考える行動形態へ一歩ずつ近づいていくのである。これは<行動修正論(Behavior Modification)>の考え方で、<漸進的向上(reinforcing positively successive approximations)>と呼ばれる。たとえば、リーダーがフォロアーに大きな職責を担わせるべく、部下のレディネス・レベルを向上させようとする場合、当初は、若干なりとも大きな責任を果たせるような機会を与えるとともに、少し指図(指示的行動)を減らすのが確実なやり方である。大きくなった責任が果たせるようなら、上司は、協労的行動を増して、それを強化するのである。それは二段構えのステップ ― つまり、第一段階が指示の減量であり、それでもうまく課題が遂行できるようなら、第二段階として社会連帯的支援の増量という強化を加えるのである。このような(漸進的な向上の)プロセスは、相手が(新しく拡大された任務に関して)中程度のレディネス・レベルをもつにいたるまで続けるとよい。だが、これは当人が担当する課題(仕事)に必要な指示(の総量)が(レディネスの向上につれて)減るという意味ではなく、上司から他律的に加えられる指示が減り、本人の自分に対する自律的指示量が増えるという意味である。このプロセスは、前述のように、上司と部下の間のミーティング(指導)の頻度や重要性を徐々に減らしていくことによって達成される。こうして、部下は自分の活動について自律的に指示できるようになってくるばかりか、対人的・情緒的連帯の必要すら自分で充足できるようになってくる。
上司は部下のレディネスが向上したときにだけ、リーダーシップ・スタイルを変えるのではなく、部下のレディネス・レベルが下がったときにも変えなければならない。部下の作業成果が下がった場合は、どんな理由であれ、(家庭内危機、責任負担の変化等)、上司は、部下のその時点におけるレディネス・レベルに合わせて図4(9ページ)のベルカーブに沿い、リーダーシップ・スタイルを後退させて、調節するのが適切であり、また必要である。たとえば、あまり監督がなくても仕事に成果をあげることができ、必要なときにだけ上司と会う部下がいるとしよう。しかし、急にその部下の仕事成果が家庭危機のために落ちたとする。この状況のもとでは、元の冷静さを取り戻すまで、指示や支援を徐々に増やしていくことが適切である(つまりスタイル3に戻る)。これがうまくいかなかった場合、マネジャーは、ミーティング回数を増やし、さらにスタイル2へ、あるいは必要ならばスタイル1へと戻るべきである。
重要ポイント
リーダーシップ・スタイルを協議するにあたって注意すべき点がいくつかある。
● 開かれた契約
リーダーシップ・スタイル契約は「開かれたもの」であるべきである。特定業務達成のために用いるリーダーシップ・スタイルをいったん合意・決定しても、再度合議できるようにしておかねばならない。例をあげてみよう。部下が監督なしで行っている職務にも、現実的にはうまくいってない部分があるかもしれない。この時点で上司に相談をもちかけ、指示を受けるべくミーティングのスケジュールを予定するかもしれない。この時点で、現行リーダーシップ・スタイルがあまり有効でないとわかる。この場合、上司、部下ともにリーダーシップ・スタイルを再度、合議するよう申し出ることもある。
● 責任分担
上司・部下間で、リーダーシップ・スタイルを合意した後、職務がうまく遂行されなかったら、両者で責任を負う。部下が職務を果たせず、また上司が契約したリーダーシップ・スタイルを、与えていなかったとしたら、これは両者の責任である。つまり、上司が密着した監督をするというリーダーシップ・スタイル契約(S1)を結んでいた場合(マネジャーがどんなに忙しくとも)、部下が職務を達成できないときは、上司が責担の一部を負ってやるのではなく、仕事の過程で支援を十分に与えてやらなければならなかったのである。
リーダーシップ・スタイル契約の例
レディネス・スケールを使って合意・決定しするリーダーシップと目標による管理を統合するこの方法は新しいプロセスであるが、すでに産業機関、教育機関、サービス機関などで成果をあげている。たとえばレストラン・チェーンでは多くの場合、監督者は管掌下の各店へ毎月、何回か訪ねることになっている。この管掌下各店訪問のような方法は、経験や能力に応じて様々なマネジャーがいるので監督方法をいろいろ変える必要がある。レストラン監督者が自分なりにマネジャーの能力を判断し、各レストラン訪問のスケジュールをたてたとすると、レディネス棒線図の両端のレベル(つまり、R1とR4)にあるマネジャーとは調整が難しい。経験豊富なマネジャー(R4)は監督者があまり来ないのは興味がないからだと思うし、経験不足なマネジャー(R1)は、監督者が頻繁に見にくるのは、信頼性が欠けているからだと思う。
こうした問題の解決には、監督者と各店マネジャーが状況対応リーダーシップを理解し、また、自分および他人の2種のレディネス・スケールを使って、監督者のリーダーシップ・スタイルを話し合えば排除できるものである。監督者とマネジャーとの間で委任的スタイル(S4)が合意されている場合には、監督者が訪れないのは興味がないのではなく、むしろ褒賞であり信頼であると受け取ることができる。
同様のことが、レディネス棒線図上の反対側のレベルの人にもいえる。経験不足ではあっても、責任をもって仕事ができるよう支援するために頻繁に来てくれるのだと知れば、当のマネジャーも、職務に対する心配事を上司と共に話し合うのをいやがらなくなる。この合意によって、監督者が密着した監督・指示を与えるようになったとわかったら、これは一時的なリーダーシップのスタイルであって、監督者が彼に関心を持ってくれていると判断するし効果的でもある。